えこひいき日記
2005年11月14日のえこひいき日記
2005.11.14
先日、秋季特別展を観るために東寺を訪れたところ、小石を敷き詰めた歩道に一匹の猫が堂々と佇んでいるのを見つけた。ひっきりなしでも、すし詰め状態というわけでもないとはいえ、人が往来する路の真ん中に人を気にせぬそぶりで「当然」という顔で佇む猫の姿が面白かったので、ちょっと声を掛けてみた。すると目を細め、目と同じくらい細い声で鳴きながら、しゃがみこんだ私の後に回りこんできた。「なんでやろ」と思って振り向くと、猫は私のコートのすそを「当然」という顔をして座布団にしているのである。「そんなところに座られますと、私は動けなくなって困ります」と猫に言うと「ではここならよいのか」というような顔をして、猫は私の膝に乗ってしまった。「それも、あの、こまるんですけど・・・」と思いつつも、猫の「当然」という態度に負けてそれを声(というより態度)に出すのを留まった私は、しばらく猫を膝に乗せたまま歩道の真ん中でしゃがみこむことになってしまった。
猫を膝に抱いて(猫はもう手を折りたたみ、ぐるぐる言いながらまあるくなって目を閉じてしまっている)しゃがみこんだ私を見て「あら、猫を連れて参拝ですか」と声をかけてくる方もおられたほど、猫は「当然」という顔でしばらくの間初対面の私の膝を占拠していた。実は一度下ろしたのだが、やはり「当然」という顔で乗ってくるので、断りきれずにおのせし続けたのだ。
「そうはいいましても、日も暮れてきますし、私のスクワット体勢を維持する身体能力にも限界というものはございますし」と猫に言うと、「そういうものですか」とつまらなそうな顔をして、膝から降りてくださった。今度はこちらの交渉に応じてくださったので私は猫に「かたじけない」と挨拶をし、立ち上がった。振り返ってみてみると、猫はまだそしらぬそぶりで歩道に佇み続けていたが、しばらくするとどこかに行ってしまった。
初対面の、恐らく野良(というか誰かに飼われているというわけではなさそうな)猫が私の膝に乗ってくるということは、これが初めてではない。今回を含めて3度ほどある。でもそのたびに、あの自然かつ「当然」という態度はなんなのだろう、と感心してしまう。瞬間的に自分の「居場所」を見定める猫という御仁は「間」とか「間合い」というものを感じとり行動に移す才能はすごい。