えこひいき日記
2001年3月17日のえこひいき日記
2001.03.17
私の実家には父の愛犬「ぐるみ」ちゃんがいる。ただし、「ぐるみ」などと呼ぶのは私だけで、ほんとは「リュウ」号という凛々しい本名がある。由緒正しき柴犬の「ぐるみ」が家にやってきた当初、ほんとに生きている「ぬいぐるみ」のようでかわいらしく、それで「ぐるみ」などと「仮に」呼んでいた、いわば幼名なのだが、その後私が実家を離れたことなどもあり、私の中ではいつまでも「ぐるみ」ちゃんなのである。
元気でおばかな「ぐるみ」なのだが、あるときから散歩に行こうとしても後ろの右足がびっこをひくようになり、あわてて医師に診せたところ、先天性の形成不全で、後右股関節が脱臼しかかっているとのことが判った。
そのとき初めて知ったのだが、由緒正しき血統書つきの犬というのは徹底した優性思想のもとに築かれたファミリーテゥリーで(当然といえば当然か)、本来なら「ぐるみ」ちゃんは子孫も残しちゃいけないし、生きていることすら(「血統書つき」という「認可」範囲では)許されない存在なのだった。
だから、ストレートにではないが、「どうしますか」ということ(つまり「殺しますか」ということ)を父は聞かれたらしい。
確かにうちの「養子」になったときの条件の中には「血統書つきだから」というのがあったと思う。しかし、では「血統」が認められなくなったから「養子縁組は解消」かというとそれは違うお話しで、もう「ぐるみ」ちゃんはうちの「家族」だったんで、もちろん「血統」の抹殺に伴う「存在」の抹殺、という選択肢は我々にはなく、ずっと「家族」でいることにした。
そうはいっても、現実に脚は痛そうで、このあたりが「すなお」というか「おばか」ちゃんなとこなのだが、痛くてもお散歩大好きな「ぐるみ」としてはお散歩への欲望をけして放棄しようとはしないのである。
見かねた私は試しに(?)職業的特技(?)を発揮して、右後股関節をかばうために生じていた左前肩甲骨下の筋肉の過緊張を解いてもらえるかどうか、試してみることにした。とはいっても、言葉で説明するわけにはいかないので(言葉でも説明したけれど)、人間に対するより幾分強いタッチで緊張部位に触れ、「ここしんどいからなー、いたくないよーにしようねー」などとてきとーなことを言いながら、マッサージまがいの行為を続けただけである。
ともかく、結果として彼はびっこをひかなくなり、相変わらず「おばか」だけど、今は元気に走り回っている。
そしてこの恩義により(?)、私だけが未だに幼名で呼んでもにっこり笑ってくれるのである。