えこひいき日記

危うきこと

2004.04.15

イラクで拘束されていた3人の邦人が解放されたとのこと、よかった。しかし新たに2人の日本人が拘束されたとのニュースもあり、イラクの情勢が依然危険であることは変わりがない。いや、ますます危険になっているといえるだろう。イラクにおいて「イラク人」と「外国人」が容易に敵対関係になりうる状況はむしろ激化している。各国の人たちがイラクで拉致にあっていることは既にニュースでも何度も報道されている。「外国人であること」がその理由である。その人がどんな人間かではなく、ただどこの国の人間であるかが、暴力を行使する理由になる・・・それはとても悲しいことだと思う。だって、それは人間をみる視点ではない。記号を見る視点だもの。人間対人間の関係ではない。しかし対象になるのはやはり人間なのである。恐ろしいくらい馬鹿馬鹿しくて、悲しいことだと思う。
こうして3人の人たちが解放されたから良いようなものの、日本政府の対応って、冷たいなあ・・・と思ったこの数日間であった。もしも彼らの拘束が長引く事態になったら、日本政府はどうするつもりだったのかなあ。「彼らは危険地帯に自分で行ったのだから、それに対して政府が(自衛隊撤退などを交換条件として)責任を負えというのはいかがなものか」と政府高官が発言していたし、「そのような危険地帯には渡航しないよう、常識的な判断をして欲しい」という旨の発言をした人物もいた。率直に言って、あきれてしまった。もちろんこれは困った事態だし、誘拐は許されざる行為である。交換条件に「自衛隊撤退」を持ってくるのも無茶苦茶だと思う。でも、例えばそこでいう政府高官の「常識的」とはどういうことなのか。「危うきには近寄らず」「あぶなそうなことには知らん顔」「政府が団体でやったことには政府が面倒を見るけれども、日本人が個人でやったことは知らないよ」が「常識的行動」ということなのか。ではその危うき地で危うい状況下だからこそ本当に助けを必要としている人たちはどうなるのだろう。政府のいう「国際貢献」って何なのだろう?もちろんスキルのない人間がただイラクに行く、というのは無謀だろう。それならばちょっとあきれられても仕方がない。でも彼らは別に危険を侵しに行ったわけではなく、ちょっと違うかもしれないが、いわば「遭難」したようなものかと思う。十分な装備をし、訓練をつんでいてもなお、彼らの努力だけでは回避したい事態に遭遇したという側面があるように思う。もしも「危ういことには手を貸すな」「政府に面倒かけないでくれよ」というのが政府の態度だとすれば、政府って政府のための政府で、日本国民のためにはあんまり働いてくれないんかな・・・と思ってしまう。
自衛隊的には「非戦闘区域」とされたイラク(日本政府的に言えば「サマワ」?)が「危険地帯」であることは周知の事実であろう。そこに足を踏み入れるということが「安全ではない」行為であることは明らかなことだ。自衛隊員の家族だって、泣いて止めていたくらいですもの。拘束された3人の日本人にもそこが危険地帯であるという認識は十分にあったと私は察する。物見遊山や怖いもの見たさや、無謀な冒険心や功名心でその地に行ったわけではないだろう。危険を承知で、でも危険の認識がそこに行くことを止める理由にはならなかったから、行くべき理由があったから行ったのである。危険な場所だからこそその地で援助を必要としている人たちのために、権威や組織に守ってもらうこともせずに赴いたのである。その行為は、誰かに真似しろと勧められるものではないし、彼らの行為を手放しで褒め称えるのもどうかと思うが、でも誰かに彼らの行動を責める権利のあるようなものでもないと思う。誰かが信念を持って行った行為には相応の敬意を払っても良いのではないかと思う。
私は、「ボランティア」とか「NPO活動」を記号的に礼賛するつもりはない。とても素晴らしい活動をしておられる方がいる一方で、「いいことをしている」ことに酔いしれたり、「ボランティア」を何かから逃げることの言い訳や、お門違いな「罪滅ぼし」の道具にしかしない人間もいる。だから彼らがボランティア等の非営利的行為のためにイラク入りしたことを持ってして、「えらい」「だから彼らに罪は無い」などと自動化するつもりはない。ただ、彼らが悪戯に危険地帯に足を踏み入れたのではなく、自身の信念で、必要性を感じて行動したことについてはちゃんと認識すべきではないかと思っている。

無謀なトライと似て非なるものとして、前人未到の値に足を踏み入れ、ある意味で危険を冒さなければ進歩や発展がないことは多々ある。例えば学問の世界や、芸術の世界ではよくあることだ。拡大解釈かもしれないが、そういう発展性に向かう一歩をも「あぶないかもしれないじゃん」の一言だけで断じ、成果があっても大して誉めず、失敗があったときにだけ大声で「ほら、みたことか。だからいったじゃない」みたいに声を荒げる超・保守的な姿勢には危険を感じちゃうなあ。

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