えこひいき日記

スキル

2004.05.06

過労であった。休み無く働いていたんだから当然だし、その兆候はもう2週間以上前からじわじわ&ひしひし感じていた。それがある出来事で精神的なダメージを受けてから加速してしまった。夜眠れなくなり、食欲が減退し、お腹がゆるくなった。私の過労パターンの一つで手強い「突然の高熱」というのがないだけましだが、右腕の感覚のクオリティが落ちてきて、こいつにはまいった。私の個人的パターンにおいて、このような右手の異常は「ストップサイン(警告)」である。だから仙台に出張に行ってクライアントをみなくてよい期間を確保するまでの間、毎日クライアントさんいお会いしている間の自分の「商品価値」をキープするのに非常に苦慮した。
あえてドライに割り切るなら、私の「商品価値」とは自分自身の「身体感覚」とそれに基づく「身体能力としての判断力」である。マニュアルで仕事をする教師もいるが、そういう仕事の仕方はボトムラインを安定させる一方で、ハイクオリティは望めない傾向がある。自分がレッスンを受ける身に成ったときに、マニュアル教師で満足したためしは無いので、「だいたいこういうふうにいうものだから」ではなく「私としては何をみて、どう思い、それをクライアントにどう伝えるか」を大事に仕事をさせてもらっている。だから、自分のクオリティのキープにはそれなりに気を使っている。食品でいえば品質保証というか、そんな感じなのだろうか。自分で信用できない材料をお客様に使用することは出来ない。それにしても、「ふつう以下」の状況下で「ふつう」の品質を維持するのはすごくコストがかかるぞ、と改めて思った。例えばキャベツが値上がりしたり、米が不作の年に、お好み焼き屋さんや定食屋さんがコストパフォーマンスが上って困るように、結局自分の儲け?をけずっても品質保持に努めざるを得なくなる。私の場合「儲け」にあたるところって、例えば仕事を愉しんでやる、という部分かもしれない。ぎりぎりの状況で運営している仕事はそんなに愉しめない。それに品質保持のために右腕に関しては個人的な作業に関してはほとんど使えない状況になってしまった。動かそうと思えば全然いけるんだが、判断として動かすことを諦めなくてはならないのだ。それはすんごいストレスである。自分でやったことの結果とはいえ、過労にストレスが加わるんだから、始末が悪い。ますます体力が要る。つくづく「ふつう」に「ふつう」をするのが一番だな、と思った。そのためには仕事しかしないようなだらしのない大人になってはならないのだ。

それにしても、こんだけへこんでいても「仕事は出来る」というのはうれしいような、かなしいようなものである。仕事における自分の調整の仕方はわかっているので、心的に辛くても、コストパフォーマンスが高くても、出来ないことは無い。でもそれが「よいこと」なのかというと、私はそういう一面的な評価を下せない。よく定年退職した人が突然ボケる、ということがあるが、なんとなくそれが良くわかるような気がした。スキルがあるというのは恐ろしいもので、それが強すぎると「それ」はできるけれども「それしか」できない、ということになってしまう。それは包括的に、多様に、物事を見る視力を失うということである。いや、視力のみならず、「それ」以外のあらゆる行動をする力を失うということであろう。「それ」が前面に出ていてそれ以外に自分の無能さを隠してくれているうちは、自分にも他人にも自分の無力さは露呈しないかもしれない。しかし「露呈していない」ことは「存在していない」こととは違う。見えていなくても「ある」んである。
私、やだわ。やっぱり仕事しか出来ない人間になんかなりたくない。退屈なんだもん。仕事は命がけでやらしてもらっているけれども、仕事は仕事。私の一部に過ぎない。

気持ちがどうしようもなく落ち込んで、新聞もテレビも人の話し声も、仕事以外のところでは耳にも眼にも入れたくないときでも、音楽だけは聴けた。音楽で語られていることだけは聞こえるような気がした。CDをかけたりすることは普段からあるが、BGMとしてではなく、仕事でもなく、「音楽」だけを聴く時間というのは昨今無かったのではないだろうか。まるで10代の若者のようにイヤホンをして、他の音を自分の周りから排除して、音楽だけを聴く。そうやってシールドしてかろうじて自分の輪郭を保つ自分がいる。
その音楽を通して窓の風景や、テレビに映るアナウンサーの顔を眺める。顔だけ見ていても何となく何を言っているのかわかる人もいれば、口だけがせわしなく形を変えて動きだけで意味など感じない人もいる。そういう「表情」は普段みていてもみえてはいないものだ。みえていなかったものがみえてくることを、私はまだ面白いと思える。そこに絶望しきれない希望の存在を感じる。その希望のために自分は苦しんでいるのだなと、まだ苦笑しながら思える。

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