えこひいき日記

2001年3月31日のえこひいき日記

2001.03.31

気がつけば、3月も今日で最後。
いつの間に2001年もここまできてしまったんだろう(急にあせる)。桜もいつのまにか花盛り。しかし寒い。

昨日の夜、思い立って100グラム1200円もした「ブルーマウンテンNo.1」を一杯だけ煎れてみた。
いつもコーヒー豆を買うお店が錦(「京の台所」といわれるマーケット・プレイス)にあり、行けばいつも5種類くらい買って帰るのだが、そこにでかでかと「ブルーマウンテンNo.1入荷!」と書いてあったので、いったい普通の「ブルーマウンテン・ブレンド」とどのように違うのかと興味を持ってしまったのだ。店員さんに聞くと、彼女はまだ飲んだことがないという。50グラムから売ってくださるとのことだったので、思い切って購入してしまった。「飲んだことはないけれど、何だか香りが違うんですよ。なんか、この豆を計るときには緊張しちゃう」などといいながら、手早く豆を計ってくれた。

店員さんは「すごーく気分のいい日か、逆にすごく落ち込んでて元気になりたい日とか、そういう日にしか飲めない感じですよね」と言い、私もうなずいていたのだが、結局私はけっこう普通な日に飲んでしまったかもしれない。しかしまあ、一日分きちんと仕事はしたし、その分くらいはくたびれたし、理由をつけるならそれなりに切り目・節目になる出来事もあったし、どだい「特別な日」とは尺度の問題であって、人生とは「毎日」以外のなにものでもないんで、よいのじゃ、よいのである。

そして問題のお味なのだが、とてもマイルドにしてストロング。強烈。とても滑らかで、余計な渋みや苦味が一切ないのに、それが味や香りの存在感の弱さになっていないことがすごい。飲んでいるときに電話がかかってきちゃったりして、中座したので後半のコーヒーは少し冷めていたのだが、冷めてもとてもおいしく、独特の甘味が香りを失うことなく口の中に残った。

「インパクト」とは「ショック」あるいは「ショックの大きさ」のことを指すことが少なくないのだが(「激辛」とかね)、それとは別に「破壊的な衝撃のない鮮烈さ」というのもある。そっちのほうがはるかにディープだ。
辛いものも私は好きで、インド料理やタイ料理も大好きなので食べに行ったり作ったりするが、いわゆる「激辛」は「イベント」にはなっても「味わい」とは言えないと思っている。辛いだけの「スパイシー」さはすぐに飽きるが、香味としての「スパイシー」さは人生を豊かにする。甘味にも同じことが言えて、ただ「スイート」なだけの甘さには味わいがない。
「毎日のごはん」が「料理」として体系をなし、その地域や国の「文化」として続いていくには、毎日の過ぎ行く「イベント」として消費されるだけでない何かが必要だ。毎日毎日ひとの口の中に消え、消化され、数時間後にはまったく原形をとどめなくなる「料理」というものが、一皿一皿のそれ自体の姿が消えても「存在」を消すことがないのは、インパクトとは別の強さがなければならない。それをきちんと存続させることは、実は大変なことだ。

コーヒーを飲みながらそんなことは頭の中を巡り、その味わいにひたすら感激していたのだが、そう考えると、もはやこのコーヒーは私の中ではただの「コーヒー豆」ではなく、一つの文化の結晶として敬意を表すべき「存在」に感じられる。えらいぞ、「ブルーマウンテンNo.1」! すごいぞ、この豆を育てた人! すごいぞ、この豆の流通を支えている皆さん!
こうして「ブルーマウンテンNo.1」はそのブランド名によってでなく、価格によってでなく、その「存在」によって私の中の「特別なもの」ランキングにランク・インしたのである。ぱちぱち!

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