えこひいき日記

2001年4月1日のえこひいき日記

2001.04.01

今朝、鏡に向かってお化粧をしているときに、以前バーでひとりで飲んでいるときに隣の人から「そんなに薄化粧でいられるのは自分によっぽど自信があるんですね」と言われたことを、唐突に思い出した。そのときはどう返したのかは記憶にないのだが、何かが引っかかったのはよく覚えている。

たぶん、引っかかったのは、私の化粧は何のためか、化粧をするのは「隠す」ためか、「見せる」あるいは「見られる」ためか、という問いかけが自分の中でちかちかせいたせいなのだと思う。そして隣の人は「隠す」方向性でしかこの行為をとらえていない、「隠すこと」と「見せる」ことを対義語的に、しかもその2つの態度しか存在しないかのようにとらえているのだ、ということに軽いショックを受けたからかもしれない。だからといってのその人とけんかや議論になったわけでもなく、多分、あいまいに笑い返して、それで終わりだったんだと思うんだけれど。

そういえば以前、下着売り場でフィッターさんにアドバイスしてもらいながら選んでいたときに、自分が思っていたサイズより胸がワンサイズ大きいことがわかり、フィッターさんに「当然」という態度で「よかったですね、もったいないですし」などとよろこばれてしまったので内心大変当惑してしまったこともあった。自分の肉体の一部のサイズがどうだろうと私自身はどっちでもいい気がする。が、「おおきいほうがよい」という価値観もまったく理解できないわけではなく、それなりによいことかも、とは思うのだが、やはり私自身は限定的なうれしさしか見出せないし、そのうれしさは私自身のためというより他人のため、というか対外的なのものだ。(例えば、ある種のお洋服がきれいに着られるのでちょっとほかの人の目を気にしないですむ、あるいは逆に心地よく意識できる、とか、自分の恋人が喜ぶ?とか)それもまた「わたし」の快感にはなるんであるが。
しかしこのときもフィッターさんに「なぜおおきいほうがよいのですか?」「なにがもったいないんですか?」と聞くなどということはなく、曖昧な笑顔の中に事態は埋没したのみであった。

そういうのって、表面上なにごともなくてよかったともいえるけど、何事にもならないことにため息をつきたくなったりもする。わかるんだけどよくわからない、わかるようなわかんないようなことって、時々ちくちくする。そういうところで相手はこっちを見て、わかったように思っているんだと思うと、ちょっとため息もでちゃったりすることがある。

自分の身体という、自分の存在(少なく見積もっても「物理的」には、「わたし」とは私の「身体」である)に関わるものの「存在」がこれほど他人の視点に左右されたり、立脚していることを考えちゃうと軽いアイデンティティ・クライシスに陥りそうになる。ワタシ トハ ナニ カ。 ワタシ トハ ダレ ナノカ。

かたちある限り、その存在は「視線」にさらされる。「みる」ことと「みられる」ことが同時に交錯する。それらはひとによってどちらが強いか、ということはあっても、どちらかだけ、というのは現象としてありえない。
以前「使える解剖学」という講座の中で「顔」と「頭」という身体部位をテーマにした一日があったのだが、自分の身体感覚の中で「顔」という部位、「頭」という部位が占める割合の話や、そもそも「顔」「頭」は「わたし」にとって「からだ」か?という話や、それはそうとして、同時に別の側面として「身体構造としての顔・頭」を考えてもらったときに何が見えてくるか等々の話題でけっこう盛り上がった。偶然なのだが、「顔」を「みられるもの」として感じている人と「顔」で自分の意思を表示する「(他人に)みせるもの」として感じてる人が同席していて、その意見交換は新鮮で面白かった。目は、機能的には受動器官なのだが、映像を「受信」すると他の人に「みられている」ことも「みえる」ので、それをどう受けとめるのかによって「みる/みられる」という関係のバランス配分は変わる。
ちなみに、「みられている」ものとしての顔の存在が大変大きかった参加者は、その後「あ、みえてもいいのか」とか「どのようにみているか、という様子がそれを見るほかの人にとっては、その人が「みせている」表情にみえるんだな」などと思い、自分の「顔」との付き合いが楽になった、と後に報告してくれた。

ちなみに最初の話題に戻るが、私は自分に自信があるから化粧に時間をかけないわけではなく、かといって化粧が嫌い、とか、どうでもいいと思っているわけでもなく、服装と同じで「動きやすさ」を最優先にしちゃうだけなんである。特に仕事中は。こまめに化粧直ししなくちゃいけないのもわずらわしいし、仕事中の自分の言動よりもメイクが目をひくようなビジュアルは、あんまり私にとって必要性が高くない。
でも自分の顔が好きか、といわれると、昔ほどではないが、でも好きでもない。でも嫌いでもなくなったかな。

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