えこひいき日記

2001年10月30日のえこひいき日記

2001.10.30

もはや年末や来年の予定を考える時期になってしまった。

私は、「隠蔽」するために自分の仕事をするのではなく、「開く」ために仕事をしたい。たいてい、私が仕事を通して対峙する「こと」の姿はグロテスクに見えたり、怖いものに見えたり、「問題」や「びょうき」と呼ばれたりするものだが、その見かけの目くらましに眩まされることなく、私はその奥にあるものを見たい。

私はこの数年、京都でのレッスン以外の仕事を減らす方向で動いてきた。それには私なりに明確な意図があってのことなのだが、ことに今年に関してはほとんどワークショップや講座を行っていない。去年の実施数と比較すると半分以下に減らしている。それは経済行為としては非常に経済的ではない活動の仕方なので当然インカムに響くのであるが、んじゃそれで暇になったかというとそうではなく、何がほしいって、私は今一番時間がほしい。減らしたいものなどない。ただ、考えるということがしたい。きちんと「ひとり」になって考えることが。

「考える」という行為は、即物・即効的な目的意識から少し遠い行為だと思う。

例えば、日々のレッスンの中で私は出来るだけ「具体的に」、わかりやすく問題に対処しようとする。「からだ」…ここでいう「からだ」は物理的な肉体のみならず、目の前にクライアントが自分の身体をどのように認識しているか、自分でもそれとは知らずその認識に基づいてどのような行動をとっているのかをも意味する「からだ」なのだが…を通して、「基本的に」クライアントが持ち込んできた問題意識に忠実に対処する。習慣的な痛み、疲れやすいからだの部位、可動域の狭さ等々、「生まれつき」とか「しかたない」とか「才能がない」「能力がない」などと自他ともに評価されがちな困り事が、実は身体構造や動作の誤認からくるものが大半で(特に習慣性、職業病などと評される症状のほとんどがそうだ)、しかもその誤認が固定化(それしかやり方を知らない)に陥っていることによってより強固な困りごとに発展することを知ってもらい、そのことによって症状が軽減されたり、なくなったり、楽になること…それはそれでとても大事なことだと思っている。

しかし、それが「目的」「ゴール」になってしまうことについては、辟易している。ハウツウに陥ることに、うんざりしている。単に物理的な意味での身体の問題、ただの解剖学、暗記知識の問題に矮小化されるのを危険視している。「生きている」ことを矮小化するのはやめてくれ。アレクサンダー・レッスン(少なくとも私の)で対象にする身体的症状が、外科的に急性なものではなく、「体質」だの「職業病」だのと評されることから察して、肉体というよりもっと「自己」に近い問題なのだと、もっとはやく気づいてくれ、と願う。

こういう「生まれつき」だから出来ない、仕方ない・・・と思い込んでいたものが、「使い方」を学んで可能性が広がり「らく」になることで、そこから何が始まるのか…私にとってはそれがとても大事なことなのである。人によっては、そうして目の前に道が開けてしまうと呆然としてしまう人も多い。障害物を目印に、その方向へ進むこと、それを超えることが「向上」や「進歩」だと思い込んできた人には、ガイドラインも目印もないその「自由」をもてあます人も少なくない。何かや誰かをカリスマ化し、誰かを敵に見立てて、失敗したらそいつらのせいにする生き方の方が「らく」でいいかもしれない。「らく」になることが、人生のゴールなら。でも、なんで「らく」に生きたいのか、考えてみてほしい、と思うのだ。それは自分らしく生きていくためじゃないのだろうか。指標は自分の中にある。自分の中にしかない。それは時にとても孤独なことだ。その孤独を、ど真ん中に据えて生きていく必要はないと私は思う。けれど、できたら、その孤独を隠蔽しないでくれ、とも思う。即効的にではなく(そうでありながらも)考えながら、生きる、とはそういうことなんだ。

私はこれまですごく恵まれて仕事をしてきたし、一人一人の人と会ってレッスンをすることを楽しんでいる。いのちがけで、苦しいこともある。でもそれすら「楽しい」と思う。けれど、同時に私は膿んで腐りそうなものをアタマにかかけていることを、いよいよ無視できなくなってきているのも感じている。毎日のレッスンが「具体的」で、(その度合いの大小はともかくとして)「改善」という方向の「変化」を目指すものだとしたら、それはそれでいいのだけれど、では、それでいいのかというと、私はそれだけではだめで、「変化」という動揺を重ねながら生きることの意味を、さらに考えながら仕事がしたいのだ。

そんなことを「これからの予定」を考える際に考えた。アタマに充満しているものは書き下ろしというかたちでアウトプットする予定である。

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