えこひいき日記

2002年10月7日のえこひいき日記

2002.10.07

ふとベランダの水槽を見ると、めだかが順調に増殖しているのだった。親めだかたちも元気、以前みつけた3匹の子供たちも元気、さらに日に日に大きくなる卵がたくさん姫睡蓮の茎に産み付けられていて、極少のめだかたちが泳ぎまわっているのも見える。さらにタニシもなぜか増えて&大きくなっているのである。喜ばしいことではあるが、あまりの繁栄ぶりにびっくりである。

ところで「先生」などというやくざな商売をやっていると、ありがたいことにさまざまなものを頂戴する機会がある。毎週のようにお気に入りのお菓子セレクションを持ってきてくださるクライアントさんもいるし、先日は我孫子市からのクライアントさんが昨年ももってきてくれた極旨コーヒーを持ってきてくださった。(前年度、この「日記」のコーナーでも絶賛したので、覚えていてくださったのだ。えへへ)
そして本日は、ぶどうをいただいた。このぶどうも実りの季節になるたびに送ってくださり、これで3度目になるかと思う。このぶどうは、ただのぶどうではないのだ!オリジナル品種のぶどうなのである!ぶどうに添えられた5ページに渡る品種解説も読んでいるとなかなか楽しい。

以前、ここにレッスンに来るクライアントさんのお子さん(5歳くらいの男の子だった)が「鶏肉の木」というのを書いてくれたことがある。レッスンの間、お絵かきの好きな彼は何か絵を書きながら待っていることが多かったのだが、「せんせい、みてみて」と私に見せてくれた絵は、りんごやみかんのように豊かに「鶏肉」が木に実っている絵であった。それはかなり奇妙な絵ではあったが、「食べるもの」と「自分」とのつながりを「買う」という行為を通してのみ体験してきた彼にしてみれば、当然のリアリティかもしれない。一つずつラップされて野菜ケースや果物ケースに並べられている野菜や果物と同じように、お肉のコーナーに並んでいる肉しか見たことがない彼にしてみれば、「胸肉」とか「からあげ(の元の状態?)」が、動物か植物かなどという違いもなく、まさに均一にスーパーに並んでいるように、「均一に、(自動的に)はえてくる」感じをもっていても不思議ではない。
かくいう私とて、消費する一方の立場でしか「ぶどう」や「鶏肉」との関わりを持っていない。私は実際に生きている鶏を絞めて食べた経験はない。せいぜい、えびとか魚を捌いて料理したことがある経験がほんの数度ある程度である。野菜やハーブも大して育てた経験があるわけではない。たいてい育てるのは観葉植物だ。ただ、えびや観葉植物でも育てるのは結構たいへんなところがある経験からして、鶏を育てて捌くことの大変さや、まるまると甘く果物を実らせて食べられるようにするまでの大変さを、まったく何もしたことがないよりは、ちょっとだけ想像しやすくあるだけだ。

一人に一人分の人生の時間の中で、ありとあらゆることを実際に体験することは出来ない。仮にそのようなチャレンジを試みたとて、「する」ことで精一杯になっちゃって、それが自分にとってどういう「体験(こと)」なのか、受けとめることすら出来ないだろう。よく必死で夢中に「しただけ」のことは、あとで思い出そうとしても何も覚えていないように、履歴書やカレンダーに書き込めるような「経験」にはなっても、「体験」にはならない。そう言う意味で、私は「何々をしたこともないくせに」とか「あなたは何々だから」という言い方で、「経験」と「理解」の問題を簡単に結びつけるアイデアにあまり賛成できない。「すればわかる」くらいなら世話はない。「している」のに、「できる」のに、わからないことの方が混迷は深い。
以前「人を殺す経験がしてみたかった」といって見知らぬ女性を殺害した少年がいたが、彼が本当に「やってみたかった」のは「自分は本当に生きているのか」を確かめる体験だったのではないかと思う。「生きている」ことと正反対に思えることをやればわかるかな、と彼が想像したとすれば、それは知的に短絡的だったと言わざるを得ない。ともあれ、「生きている」だけでは自分が「生きている」気はしない。自分の「生」をかろうじて認識できるのは、自分のしていることが自分の認識とつながったときだけであろう。大事なのは、自分のしたこと・していることを受けとめ、その体験から、したことがないことにも理解の目を向けられるようなリアリティを構築することなのかもしれない。

話が大きくなってしまったが、毎日やっているけれどそれが何なのかわからない(というか、考える機会すらない)「食べる」ということが、どういうことなのか、それをすこし力強く実感できる機会を与えてくれるこれらの贈り物に感謝なのである。おいしいお菓子やコーヒー、ぶどうが、けして自動的に生えてくるのではないように、それを私に持ってきてくださる方の気持も、けして自動的なものではないのだもの。ありがとう、なのです。

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