えこひいき日記

2003年7月28日のえこひいき日記

2003.07.28

この週末はなぜかやたらと「黒猫」に目が行く日々であった。そしてけっこうどじなのであった。アンティーク市で、見つけたベルギー製の黒猫のぬいぐるみの「値札のゼロを一つ見落とす」などという、古典的な間違いをしてしまったのである。数万円だと思ったのが、10倍だったんですね。あわてた。というより、あきれた。いくら手書きの値札だったとはいえ、このような間違いをしてしまうものなのですねー。こんなことは初めてだったので「恥ずかしい」というよりも、自分にあきれた。その猫のぬいぐるみはアンゴラの毛でできていて、結構ずっしりと重く、いい感じで、すごーく迷ったが(10分の一の価格でもすっごく迷ったのだ)意を決して店員さんのところに持って行ったら「あれ?!」ということになったのだった。いやはや。
すごくよい人形だったが、ご縁がなかったということなのだろうか。縁があったらまた会えるかもしれないし・・などと思いつつも、ショックだったので、うちの猫に顛末を報告した。猫はのんびりと寝そべりながら私がしゃべるのを聞き、「だからどうした?」という顔をしていた。

もうひとつ目に付いた「黒猫」、テレビで放送されていた「スタジオ・ジブリ」制作のアニメの中の猫である。私はこんな仕事をしているせいか、動作というものが他の人よりも目についてしまうようなのだが、どうもその猫の「振り返る」動作と「ジャンプ」の動作が気になってしまった。猫の骨格では不可能な動きをしていたのである。猫(というより、人間以外)の頚椎(首の骨)と頭部の接続部は、後頭部にある。うちの事務所には山猫の頭骸骨があるのだが、それをみてもその形状は明らかなのである。それに対して人間の頚椎は頭部の下にアクセスするようになっている。だから人間が「振り向く」という動作を行う際には背中や肩のあたりを動かさずともある程度振り向くことができるのだが、猫や犬はそうではない。彼らが「振り向く」という動作をしようとすると、背中後とよじれるのである。ところがそのアニメの中に出てくる黒猫は、まるでこけしの首が動くように、頭部の身が動いていたのである。それはすごい違和感であった。また、人間がジャンプをする際は放物線的なジャンプの軌道を描くことが常だが、猫の場合はそれよりやや垂直なラインで飛ぶことができる。猫が自分の慎重の数倍もある机や棚の上に飛び上がるとき、助走をつけるところなどみたことがないだろう。猫はランディング・ポイントを目算し、棚や机の真下に近いほど、側に近寄ってジャンプする。背骨や脚の構造が人間とは違うので、より垂直なジャンプこそ彼らが得意とするものなのである。ところがアニメの中の猫は、すこし遠いところから踏み切って、机に乗ったりするのである。
ものすごく好意的に解釈するのであれば、そのアニメは、イタリアの海沿いの町のような風景に、北ヨーロッパのような建物、明らかに西洋人?の顔立ちだが名前は日本人っぽい、というような、いろんな文化がミックスされた仮想の街を舞台にお話が展開するので、「猫に人間を混ぜる」というのもそういうミックスチュアの一環だったのかもしれない。しかしそれにしては他の動物にそのような転用が行われているところはないし、どうしてあの動作にだけ人間の動作を取り入れるのか、必然性も感じられない。やっぱり「見落とされていた」というほうが事実に近いのかもしれない。

ずっと以前、あるワークショップで「レッスンやワークショップで指導をするときに、「先生(*あ、私、芳野のことね*)はその手に何を感じ、何を見て、指導をしておられるのか」という意図の質問を受けたことがあった。私はあんまり迷わずに「その人の筋肉に翻訳されたその人の認識」と答えたことがある。くりかえし、「くせ」と呼ばれるほどの再現可能な状態になった動作パターンというのは、その人の認識の「かたち」と呼んでも過言ではないのではないかと思う。認識されていないものは、たとえ回数的には何度目撃していていようとも、その人にとってこの世に存在しないのと同じである。そしてそのような認識(認識されていないものはこの世にないのと同じ、という認識)が認識されていないのであれば、それもまたこの世にないのと同じであろう。だから「くせ」は本人が「やっているつもりがない」のに温存できるし、長年の「くせ」で苦しんだ人であっても、それを知ることによって、変えることができる。猫は見たことがあっても、猫がどのような動きをし、どのような動きを「猫の動き」と認識しているのかに興味を持ったことがあんまりないのであれば、それを画面や動作として再現(というより、創造か)することは難しいであろう。「猫」という他者を描くときもそうかもしれないけれど、自分自身に関してもそうかもしれないな、と思ったりするんである。

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