えこひいき日記
2003年10月9日のえこひいき日記
2003.10.09
午後からずーっとクライアントが連続し、終わったとたんにタクシーに飛び乗ってある劇場に向かった。とあるパフォーマンスを観る予定になっていたのである。友人のプロデューサーが惚れ込んで呼び寄せたフランスのパフォーマーたちの公演で、私も半ばそのプロデューサーの情熱に絆されて何とか予定をこじ開けたのだが、彼の情熱の賜物なのか、盛況であり、私がたどり着いたときは既に「立ち見です」という状態だった。「満員になっても赤字」とこぼしていた友人のために、この盛況を祝しつつ、チケット代を支払って開演間際の会場に入ろうとしたとたん、マナーモードにしていた携帯電話が震えた。かかってきた電話の相手は、ちょっとした用事で連絡を待っていた相手でもあったので、電話に出るべく慌てて会場の外に出た。
外ですこし話をして、電話を切り、劇場を振り返ったとき、微妙に観劇する気持ちが揺らいでいることに気がついた。戦い尽くしたウルトラマンのように、本日分の自分の気力体力が尽きかけていたのだ。既に低血糖の兆候が在り、舌がしびれて意識がボーっとしている。観て観れんことはないが、立ち見と聞かされている劇場に戻ってどこかに立ち位置を確保することに戸惑いを感じた。多分主に「体力との戦い」であって、ものを鑑賞する態度とはいえなくなるかもしれない。いや、単に、そうやって迷う程度には最初から私の観劇にたいする自主性に問題があるのだろう・・・どうしよう・・・と数秒迷ってから、私は劇場に戻らず、またタクシーに乗り、事務所に戻った。
正確には、事務所が入っているビルに戻った。午後8時を過ぎていたが、うっかりしていてまだ今日は1回しか物を食べていなかったので、血糖値が落ち、タクシーの中で既に舌が完全にしびれていた。もともと血圧は低く、機械では全く脈が取れなくなることも珍しくはないので、慣れちゃいるのだが、あいにくキャンディーとかチョコレートとかをかばんに入れていなかった。とにかく、手っ取り早く血糖値を回復させるものを摂取せねばならない。で、地下のバーに駆け込んで、果糖の入った薄いカクテルを注文して、とりあえず胃に流し込んだ。乱暴なやり方ではあるが、気付けの薬物が必要だったのである。そうしておいてから改めて食べるものと、スコッチを注文した。ウィスキーなどめったに飲まないのだが、ハギスを食べているうちに欲しくなってしまった。だいたいハギスを置いているバーなんて、とても珍しい。一人では外では食事などめったのしない私だが、お酒は飲むときは一人で飲みにいくほうなので、いつものみに行くバーでは簡単な乾き物しか置いていないので、こういうパターンも私にしては珍しい。
このバーにのみに来たのはこれで2回目だが、前回も私は駆け込みで来ていた。数年前の春の夜に、私はどうしてもイチゴのフローズン・ダイキリが飲みたくなって、このバーに駆け込んだのだ。入ってくるなり「ストロベリー・フローズン・ダイキリは作れますか」と聞く、かなり妙な客の私だった。結局、生のイチゴの用意がなく、「リキュールなら在りますが・・」と申し訳なさそうに言ってくださるバーテンさんの配慮に感謝しつつ、別のものを頂いたのだが、どうしても生のイチゴを使ったダイキリが飲みたかったので、すぐ外に出て、電話をかけ、行きつけの店にイチゴの用意があることを確かめてからそこにタクシーで移動したのだった。
それにしてもなんともクレイジーな一日の終わりであった。劇場の方々、ごめんね。