えこひいき日記
天地無用(エビの話)
2004.05.25
今朝になると鳩(ヒナ)は、昼間でも歩き回るようになったが相変わらずジャンプする気配はない。心なしか心配そうに親鳩も見守っていて、ベランダを離れない。(普段だと、えさを与えるとき以外はあまりヒナたちの側に留まらないのだが、それが本当にヒナを見守ってのことなのか、単に休憩しているだけなのか、定かにはわからないんだけれども)
鳩は私が飼っているわけでもなんでもなく、ただ勝手に私の事務所のベランダを気に入ったのだが、ベランダに置いてある植物(主にアイビー)は全部私が持ち込んだものだ(当然だが、ベランダにアイビーが自生していたら怖いもんね)。それにしてもここの植物達はよく育つ。北側にしか窓がないこの事務所でどうしてこんなに育ってくれるのかわからないが(特に肥料も上げていないし、普通に水だけ)、枯れずに良く育ってくれる。種から育てたブラックビーンズはついに天井に届いてしまったので、先ごろてっぺんをきってしまったが、わき芽が元気に出てきてくれているので嬉しい。今が伸び盛りのポトスもどんどん伸びてくれている。
いつぞやもクライアントさんが「気の流れが良いんじゃないですかねえ」などと言っていたが、まあ私なりにへんなものが滞らないようには工夫している(へんなものが入ってこないようにするという工夫の仕方もあるのだが、それじゃ未知のご縁をとり損ねそうなので、私は「入ってこない」よりも「出て行ってもらう」ことを促進している)のだが、それがどのくらい植物達に関係しているのかは自分ではわからない。でも、ともにいい感じであるのならいいな、と思っている。
水の生き物も好きなので、ベランダの小さな水槽にはメダカなどもいる(これも恐ろしいほど世話をしていないのだが、滅びませんねえ。多分、メダカ水槽内が今やバイオトープ状態になっているんだと思う)が、室内にも何か欲しいと思ってしまい、つい買ってしまったのがそれこそバイオトープ状態になっている球形水槽であった。今年の初めくらいだったか。その密閉されたガラスの球体の中にはハワイの海域に生息するエビと、海水と、珊瑚が入っている。海水には目には見えないがバクテリアや藻も生きていて、ガラスの表面に生えた藻をエビが食べ、その糞やエビが脱皮した殻、あるいはエビの死骸をバクテリアが分解し、その栄養と二酸化炭素を珊瑚が吸収して水槽内に酸素を供給する・・・というサイクルらしい。ハロゲンライトや直射日光の下だと水槽内の温度が上りすぎてだめらしいが、室内光があるところだったら問題ないという。ということで、最初はレッスンを行う部屋にその水槽を置いていたのだが、なぜかやたらと藻の生育がよくこのままでは水槽内が見えなくなりそうだったので、今はそこよりもさらに光量の少ない玄関に居てもらっている。
水槽内のエビたちの動きは本当に面白い。水中の移動は通常「泳ぐ」と表現するのが一般的なのだろうが、彼らの動きは「走る」とか「歩き回る」というような表現がふさわしいような気がする。スパイダーマンみたいな感じ?つまり魚のように水中を自由に突っ切るような移動よりも、足を規則的に動かし、ガラスや珊瑚の表面に沿って移動するような動き方が多いからかもしれない。特に球形のガラスの内側をぐるーっと移動して、水面の裏側もガラスの壁面と同じようにすーっと移動していくのを見るのは面白い。彼らにとって「上下感覚」とはどんなものなのだろうかと思う。彼らとしては「上」も「下」もなく、ただとめどなく「直進」しているだけなのかもしれない。
人間にとって空間的な意味での上下感覚はかなり支配的で、それゆえに動作パターンもそれに準じたもので構成されがちなのだが、彼らの天地無用が無用の動きは実に面白い。スキューバダイビングを立っていて、水中で「宙返り」をするときなど、時々自分がいかに空間的なセンス(「上下」)でバランスを把握しているのかよくわかるときがある。水中で上下にこだわると帰ってバランスが取れない。これまでにも水中で「こける」ひとを見たことが何度もあるが、あれは動作の力学を読み違えるために起こるアクシデントである。水中ほどではないが、例えばコンタクト・インプロビゼーション(身体接触をきっかけとして即興的に動作を生み出していく技法)のように、どちらの方向からどのような力が加わるのかわからない動作をしているときに、空間的なセンスで動きすぎるとかえって動けなかったり、相手の動きを待たずに先読みして自分から動いてしまったりするのをよく見かける。これが身体的な意味での上下制御ができると、わりと動きやすくなるのだからおもしろい。
ちなみにエビたちは3,4年は生きており、最長12年生きることが考えられる、と説明書にはある。またエビは水槽の大きさに合わせて成長するため、水槽内で巨大化することはないらしい。(ほっとするような、つまんないような)