えこひいき日記

2008年6月10日のえこひいき日記

2008.06.10

東京に来ている。
今私がいる場所からそんなに遠くないところで2日前、通り魔事件が起きた。日曜日の秋葉原で7人もの人が亡くなり、10名もの人が怪我をした事件だ。
「誰でもよかった」と犯人は言っているという。でも、地元ではなくわざわざ秋葉原に出てくることには犯人の意思が感じられる。地元ではなく、秋葉原。静岡の誰かではなく、秋葉原の誰か。だから厳密にはまったく「誰でもよかった」わけではないと思う。なんだかこんなふうに、自分の意思を自分で汲み取るのが下手な人って増えているのかな、などと思ってしまう。明らかに「こうだ!」というのだけが「何か」や「誰か」ではなくて、「こうかもしれないけど」みたいなものだって「誰か」や「何か」なんだけれども。少なくとも、「何か」や「誰か」になりかけだったりするんだけれど。プロセス抜きでいきなりこの世に出現するものなんて、ない。たとえ目に入りにくくても、思い描くカタチになっていなかったとしても、それは「何か」だし「誰か」なのである。
本当に「誰でもよかった」のなら、その「誰か」はどうして自分自身ではなかったのだろう。その「誰か」にどうして「自分」は含まれないと思えるんだろう。昨年亡くなった哲学者・池田晶子氏が著書の中で(たしか新聞に連載されていたコラムのような文章をまとめたものだったと記憶している)、昨今増加した「誰でもよかった」といって人を殺す人たちの事件について「誰でもいいから殺したい、と思ったときに真っ先に殺すべきは自分だ。それが順序だ」と書かれていたと思う。なぜ自殺せずに殺人をするのか。・・・過激に思える問いかけだが、まったくその通りだと思う。
ただ、自分がない人間には、自分を殺す選択すら発想できないんだと思う。だって、そもそも「ない」んだから。だから、「ある」と思える方を殺す。「世の中」を。「他者」を。
「自分がない」とはどういうことかというと、基本的にリアクションしかしない、リアクションだけで必死、ということである。クライアントさんの中にもそういう人たちはいる。その時々の状況に反応していることがその人の「行為」だから、人当たりはよかったりする。けして知的レベルが低いわけではないし、きちんとしている。でも必死すぎて、いろんなことが見えていないことが多い。考え方も広がらない。その中であたあたしていて、いつも疲労を高めている。その疲労感が、時折感情的な怒りに変換される。「他者」に対する怒り。自分を「こんな状態にさせている“世の中”」に対する怒り。
ただ、私がお会いする人たちは、少なくとも何とか「そういう自分」に自分で気がついた人たちである。「こんなの、変じゃないかな」と自分で思えて、それを生身の他人にさらす勇気が持てた人たちである。私が言う、彼らにとっては耳障りのよくない話や提言に、反発を示したりしながらも、どこかで聞いていてくれる。急いで何かをして終わらして済ます、のではなく、聞く、考える、というのが大事だと思う。その中から本当は自分が何をしたいのかが見えてくる。自分は何がしたいのか、何を欲しているのかを知るのは、簡単なことではない。でもここに在る自分が自分で在るために、大事なことだと思う。

今回の事件を耳にしたときに、ふと、「自殺行為」という言葉が頭をよぎった。「自殺行為」は「自殺」そのものとは違う。内容的には自身を滅ぼすに等しい行為であるからそんなふうに言うのだが、でもこの場合、彼は自分を殺さず、他人を殺した。世の中嫌になった、と言って。彼の言う「世の中」に、どうして彼自身は居ないんだろう。どうして自分自身でも、自分が「世の中嫌になった」理由に直接関係する人間でもなく、殺す相手を「それ以外の人」に選ぶのだろう。自他の区別がついていないくせに、実は都合よくつけているんじゃん、とも思う。誰でもいい、と言いながら、明らかに自分に都合のいいほうを選んでいる。それなりにアタマがよくて理屈が通ったようなことを言っているように見えても、実はその論理って、合理的なんじゃなくて合「利」的なだけだったりする。その無意識の選択に気がつきもせずに。気がつこうともせずに。

私はその「気がつこうとしない」態度が身震いするほど嫌いだ。ほんとは当事者なのに、自分だけは責任がないみたいな振りする人間が嫌いだ。その目はいったい何を眺めるためについているんだ!と怒鳴りそうになる。そんなことをここで書いても本人に届くわけではないし、言ったところで本人に私の言葉が理解できるかどうかは分からない。だから分からせるために言うのではない。気持ちが悪くなったら嘔吐感に見舞われるのと同じだ。ただの生理的反応である。
嘔吐するのは不快だ。でも私は私を吐かせた人間を恨んだりして、コトを済ませたりしない。そんなの、本質的じゃないからだ。私は私の嘔吐感を抱えて生きていく。

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