えこひいき日記

2011年4月14日のえこひいき日記

2011.04.14

よくサプリメントのCMなんかで「これ一粒に○○××個分の栄養素が!」という謳い文句がある。(○○の部分は、果物とか野菜とか魚とかの名前。××は数字ね)
晴れやかで誇らしげな声の印象から「まあ素晴らしい!」と言いたいところなのだが、私の頭の中をエリザベート・バートリーが通り過ぎていくことがあるのは、私が歪んだ人間だからだろうか。

人間が経口摂取しているのはささやかな「一粒」かもしれないが、それは××個分の○○。つまり○○××個のお命を頂戴しているわけである。なかなかの大量殺戮。以前ベストセラーになった『ゾウの時間・ネズミの時間』の中でも、摂食だけでなく電力等で多くの「生きていくための熱量」を必要とするようになった人間はリアルサイズ以上の哺乳類、でかさでいうと「恐竜並み」と表現していたと記憶している。
あえて自分の前言に補足(反論?)を入れるとする。サプリメントの中には厳密に「××個の○○」を使用しているわけではなく、「××個分」になるように他の物質で調整しているものもある。つまり厳密に××個の御命を頂戴しているわけではないこともある。そう考えると罪悪感は幾分減りやすいかもしれない。また、サプリメントという製品以前にも、例えば野菜ジュースだって、漢方薬を煎じて飲むのだって、アロマテラピーのエッセンシャルオイルだって、「御命の凝縮物」は以前から存在する。何もサプリメントが史上初というのではない。
ただ過去と状況が異なるとすれば、そうした「御命の凝縮物」が技術的に大量生産が可能になったことだ。お金さえ出せば手に入る状況が促進され、低価格化がされ、流通が進んだことだ。過去においては、それらは「薬」という非常時の希少品。そして少数の権力者の占有物だった。でも今では、ちょっとお金と知名度があれば簡単に「セレブ」などと呼ばれ、加齢を罪悪のように言い若くあることに過剰な価値が与えられて「美魔女」などという流行り言葉などにされて、誰でも始皇帝やエリザベート・バートリーに「なれる」時代になった。あるいは恐竜に。

そんなことを原発問題のニュースを見ながら考える。一般人にマイ原発は作れない。でも、とんでもない量や力を用いても消費に応えることこそ善、不足や減少を過剰に恐怖する考え方の背後には「一粒で○○××個分!」と同じ感受性が働いているような気がしてならない。

私が原発を作ったわけではない。積極的に賛成したわけでもない。でも、結果的にその恩恵に浴してきた。そういう意味で暗黙に受け入れてきた。受け入れることで影が生まれてしまうこと、犠牲になるかもしれないものに関心を払ってこなかった。
だからといってこれから東電の人たちや行政を責め立てることに積極的になろうとは思わない。私に出来ることがあるとすれば、事のもとになる感覚について考えること。人間のリアルサイズと、なりたいサイズ、なれるサイズについて考え続けること。人間と呼ばれるこの生き物がなんなのか、考えること。本当にほしいものは何か考えること。
原発を生み出す感受性は人間の外にはない。中にあるのだ。身体の中に。日常の中に。                               

可能になってしまうと、それが不可能であったときよりも、その行為の重大さが軽くなったように感じられる錯覚がある。
例えば「できない」ときは必死でそれが出来るようになるよう、がんばるが出来てしまうととたんに「できる」ことには興味を失ってしまうことがある。「そんなことよりも、こっちのできないことをなんとかしなくては」と、「できない」を追いかけていってしまうのだ。本人はそれを向上心と感じていたりする。同時にあるいは逆に「まだまだ足りない。私は不完全な人間なのだ」と劣等感に思っていたりする。
あるいはこんな考え方もある。「できる」ことはいいことなのだ、という考え方だ。それが「できる」のはそれがしてもいいこと、すべきことだからではないのか、という考え方だ。時代もあるのかもしれないが、かつて人間は自らを神に次ぐほど、あるいは越えるほどの存在で、できてしまうことは即ちいいこと、行けるとこまで行ってしまえ!と、信じていたような気がする。してはいけないことなら起こせるはずがない、と。でも「何か」や誰かに叱られたり止められたりしなければやりっぱなし、って、万能どころか、こども、ってことなのだ。
人には「やれるだけやってみたい」という欲望がある。それが豊穣を意味するのか、底のない飢餓感から来るものなのか(結局、前記の話とおんなじ)は、にわかには判じがたい。
一ついえることは、人間が欲望に仕えないこと。人間が欲望を抱く立場にあること。多分それが、おとな、ってこと。

テクノロジーに使われるな。使え。使いこなせ。使わないという使い方も含めて。

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