えこひいき日記

2002年5月28日のえこひいき日記

2002.05.28

去年の秋に植えたゆりの花が無事に花開いた。わーい。1.5メートルほどに伸びた茎から6輪のつぼみが現れ、それが大きくなるほどにつぼみの重さで茎が大きくたわみだしたので、切花にして飾った。よい匂いがして、うれしい。

先日、建築家の友人と「妙な健康法に凝るくらいなら趣味のよい部屋に住んだ方がからだにいい」などという話を冗談めかして話していたのだが、あながち冗談だけでもない。何をもって「からだにいい」とか「健康」とかを定義するかは私にとって日に日に「よくわかんないこと」になっていくのだが、でも、「これはちゃうやろ」ということは少しわかってきた気がする。少なくとも「じぶん」という存在の存続は、微妙なバランスの中で成り立っているように思う。少なくとも、栄養が足りて、眠れて、起きれて、けがや病気をもっていないことだけでは「健康」とは言い切れないし、それだけでは「じぶん」を支えきれない。上記のような条件は大切なことだし、それに事欠いたときにはそれを満たすことを潔く優先すべきだが、それで「守り」に入ってもちょっとつまらないし、無理を押し通して「用事を済ます」だけの人生になるのもなんかちょっと嫌だ。
「役に立つ」という言葉があるが、このことにこだわることは「役に立たない」と思うことがある。私のところに来るクライアントさんには「なんでそこまでしんどいからだの使い方を日常化できたのか」というくらい無理を無理とも思わず暮らしてきた人も多い。そうした方の多くが「目の前に在る用事を済ます」「それをできる能力が(かろうじてでも)ある」ことで、それ以外の全てが隠蔽される視点のもち方を(そういうつもりはなくても)してきたようだ。他人からの頼みごとを断れず、気がついたら人の要望に「使われるだけ」になっていた、という人も少なくない。あるクライアントは、人に頼まれるままにさまざまなことを引き受け、そのために転職したり、資格をとったりして、気がつけばとっくに「親切」とか「頼りがいのある人」という状態を超えて、「うまく人に使われる」状態になっていた。悲しいことに、このような人がその働きのほどに他人から感謝されることはとても少ない。「あの人はそれができるひとだから」で「おわり」なのである。「役に立つ」「たてる」ことはすてきなことだけれども、それをする者がそのことでほっと胸をなでおろすだけのようなのはやはりなんか悲しい。あえて厳しいことを言うようだが、「○○のため」でしか行動できなくなった「役に立つだけの存在」の薄っぺらさは、ときにそれを行う人を人として扱おうという最低の配慮を他人から奪うほどになってしまうのかもしれない。

花をいけるという作業は、生物的生存という意味では、あまり役に立つ作業ではない。だが、この作業(華道、フラワーアレンジメント、飾花等々)がなぜかくも魅力的なのだろうとしみじみすることがある。以前『クロワッサン』という雑誌に連載されていた「花の教科書」というコーナーが先日まとめられて本(別冊)となり、出版された。私はこのコーナーのひそかなファンで、器と、花と、そのバランスとで、どうしてかくも世界が変わってしまうのかと、目にするたびにただただ驚嘆していた。世界が、世界とし存在しているだけではその存在が目に見えず、何かの「かたち」になおされて始めて人の目に映る・・・そのことは、学生時代からの私の中のテーマでもある。恐らくあらゆる芸術がそうだと思うのだが、「愛している」とか「わたしは生きている」とか、そういうことを言っただけで、そうしているだけで、伝わったらいいのかもしれないけれど、それだけじゃ「みえない」から絵に「翻訳」し、踊りにし、歌にし、文章を書くような気がするのだ。現実の世界の歩道を歩いている人がいきなりオペラ歌手のように歌い出したら「○ち○い」扱いされるかもしれないが、舞台の上でなら、それがただ「歌っている」と認識されるのではなく、「存在」を伝える言葉になれて、それを知ることが現実の世界を生きる力になれる。舞台とか、オペラになるとちょっと大げさかもしれないけれど、例えば食事だって「死なないように栄養摂取することが、食事か」というと、それだけじゃあね・・・というのと同じなのである。
いけられた花を見るとき、肉眼に触れるのは「花」かもしれないけれど、みているのは花(だけ)ではないと思う。花を通してみえる世界がそこになければ、花をいける意味はない。(絵画を見るのだって、「キャンバスに塗り重ねられた絵の具」をみにいっているわけではないのだから)
私は出来るだけ、正直に、繊細に、そこに垣間見える世界を感じて死ぬまで生きてみたいと思うのだが、その一方で、花一輪ほどの潔さを持ってこの一生を生き抜くことの難しさを、これまたびしばし感じる今日この頃なのである。

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