えこひいき日記

2002年11月7日のえこひいき日記

2002.11.07

実に一年ぶりくらいに、猫のシャンプーを行った。
ご多分に漏れず、うちの猫さまもシャンプーは嫌いだ。それどころか、長毛種なのにブラッシングも嫌いで、しかも年々気難しくなり、ほんと、困る。しかしそれらもすべからく「人間の都合」であって「猫の都合」とは異なるのかもしれない。長い皮毛の中に毛玉が出来ても(生えている毛と抜け毛が絡まると、毛玉になってしまい、これはブラッシングくらいではほどけにくい)人間が思うより、どーということはないのかもしれない。でもやっぱり毛はある程度汚れちゃうし、皮膚も清潔にしないと(人間と同じで、高齢になってくると皮膚のコンディションは繊細になってくるのだ)なかなかたいへんなので、暖房を使うようになったこの時期にこそと、シャンプーを決行したのである。あ、ちなみにうちの猫はドライヤーも大嫌いだ。猫は基本的に、むだにうるさいものは皆嫌いなのである。しかしながら猫の毛には油分が少なく、犬の毛ようにすばやく水をはじいて乾くような性質にないので、濡れたら速やかに乾かすことが望ましい。だから、暖房機の前で自然乾燥していただけるように、暖房をつけるようになる時期を待っていたのだった。

私と猫との生活は、「声なき会話」の日々である。うちの猫はめったに鳴かない。『猫のサインを見逃すな』(斎藤昭男・著 アドスリー・発行 2001年12月10日第1版)という本には、猫の鳴き方によってそれがどのような意図を示していたり、コンディションの現れであるかがこと細かく記されているのだが、うちの猫に関しては全く参考にならない。しかし「声」がなくてもうちの猫はきわめて饒舌で、「無口」だとは思ったことがない。
そんな猫でも例外的に大声で泣き喚くことがある。それがシャンプーである。風呂場のドアをあけろと泣き喚き、シャワーの水を叩こうとし(当然、むだなのであるが)抵抗を試みる。シャンプー(洗う)ことよりも、あの水がじゃーじゃー出るのが嫌のようである。私も嫌なことを長々と体験させたくはないので、短期決戦の構えでシャンプーに挑む。「はい、もうおわりだよー、もうすぐだよー」と言いながらシャンプーをすすぎ、すぐさま逃げようとするのを「ごめんね、まだもうちょっとねー」と言いながらタオルに包み、できるだけのタオルドライを試みる。そうしてようやく解放された猫は、自分の被毛を舐めながら、少し落ち着いてゆくのだった。

相変わらずのことだが、シャンプーをめぐる攻防の直後でも、猫と人間はすばやく和解が成立する。人間同士ではこうはいかないことが多いのだが、少なくとも私とこの猫の場合、「シャンプー」という「嫌なこと」を行う人間の行為は「嫌がらせ」とは似て非なるものであることが、とっても簡単に理解してもらえる。すごくありがたい。ともにシャンプーの終了を喜び、猫は洗い上がりのふわふわの毛皮にどこか「得意げ」な様子で、ご機嫌なのだった。

「かわいがる」ことと「知る」ことの間に在るものを、考えることがある。私のところにいらしてくださるクライアントさんには、私と同じく猫が好きな方が多くて、そのことで話が弾むことも少なくないのだが、猫に対する対し方は実に色々なんだなあ、と思うことがある。「猫は病気をしないと思っていました」「猫は風邪を引かないと思っていました」という方も少なからずいらした。理由を聞くと、「・・・だって、猫だから」ということで、要するに、考えたことがあまりないのだと思う。「猫」と「人間」という「違い」は認識できるが、「共通性」に対する認識はそれに比べるとそがれやすいのかもしれない。
拡大解釈かもしれないが、「猫だから(人間と違う)」は「子供だから」「男だから」「女だから」「外国人だから」とかという理由のつけ方(片付け方?)にも似ているよな気がする。これは一種の「隔絶」なんだけれども、だからといって「拒絶」「敵意」と連携するとは限らない。「隔絶」だけど「かわいい!」と結びついたりもできる。だけれども、「かわいいと思っている」、つまり「好感を持っている」だけで「知っている」つもりになると、ちょっと意外なこともあるように思うし、その違いの発覚に驚いた勢いで「こんなにかわいがっているのに」などとキレられても「お門違い」なところは否めない。しかし、意外にこういう「勘違い」って、多いような気がする。
「かわいい」と思う気持ち自体が「かわいい」し、いいな、とは思うのだけれども、相手に向かう気持がそれだけになっちゃうと、「理解」というものから遠ざかってしまうような気がする。中には子供や動物を「かわいがりたい」あまりに「知る」ことを拒絶してしまう人もいる。「知る」内容の中には、それ自体を「かわいい」とは思えないような内容も混ざっていることがあるからだ。まあ、そういう人は、それで困らない距離で相手と付き合えればいいのだけれどさ。
私だって、自分と関わる全てのものに対して等しく「知りたい」と思っているわけではない。払いのけるほどではないが、興味も沸かないものだっていっぱいある。でも、猫(「全般」というよりも、やはりうちの猫!)に対する興味は尽きない。やはり知れば知るほど面白い。

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