えこひいき日記
2003年3月8日のえこひいき日記
2003.03.08
先日、すこし循環器系が弱ってしまったのでちょっと検査をすることになった。その一環でホルター心電計という、ウォークマンくらいの大きさの心電計を装着して24時間心電を記録するというのをやってみた。小さい頃から心電図をとれば必ず再検査に回され、血圧を測れば血圧の低さのために脈が取れないということも私にとっては日常茶飯事なので(今回の検査のときも、脈拍を計る電子機器を使用したのだが、ことごとくエラーであった)、こうした検査にはある種の親近感すら覚えるのであるが、ホルター心電計は初めて使う検査器具だ。みょうにわくわくしながら検査に望んだ。
24時間の心電記録を行う目的は、発作のタイミングをつかまえるためである。うまく発作の状況が記録できれば原因や対策の分析に役立つ。逆にいえば、この24時間中に発作が起こってくれなければせっかくの高価な機器を使っての記録作業も残念なことになるわけで、私の心境はなかなか微妙だ。発作症状はぜんぜん楽しくないのだが、この24時間中に起こってくれないと、ちとコマル。医師も苦笑しながらこの検査の意味を説明してくれた。
私は勝手にこの検査を「ゴキブリほいほい作戦」と名付けた。ちなみにゴキブリは私が全く親近感を抱けない生物の一つなのだが(ゴキブリには申し訳ないが)、知るためには捕えなくてはならない。それといっしょで、けして「それ」(ゴキブリ、もしくは発作)にはまみえたくないのだが、捕まえて、知ろうとするならばその出現を願わなくてはならないのだ。
機具の装着とともに、医師から小さな記録用紙を渡された。この24時間中に「何時何分、何をした」というのを記録するのである。記録用紙にはスコア表のように、例えば「運動」とか「就寝」「起床」「食事」「投薬」「排泄」「乗り物に乗る」など、心電にアクションを与えやすい主な身体行動が予め記載されており、記録者は時間を書き入れてどの行動をしたかをマークすればいいようになっている。そして機具本体には「イベントボタン」と呼ばれるボタンがついていて、もしも発作が起こったらこのボタンを押すことによって心電記録自体にもマークを入れられるようになっている。自分の24時間をこのように意識的に過ごす機会はありそうでない。私はあるミッションを受けるように、神妙に医師の指示を聴いていた。
そいでもって最終的に「ゴキブリ」はキャッチできたのかというと、これが微妙だったのである。データは今分析に回っているのでその結果はまだわからないのだが、装着中の24時間に大物の「ゴキブリ」は出現しなかったので、なんだか微妙にがっかりしたような気分である。くそう。
でもまあ、自分の心臓とは生まれたときからの付き合いなので、ある程度は加減というか、距離というか、付き合い方がわかっている。その距離感に変化があるのかないのかを確かめるのが今回の検査の目的だ。距離感が変わったとしても自分がしたいことや基本的な生活が変わるものでもない。だから全く普通に仕事をしているので、これを読んでくださった方、どうぞ心配なさらず。
そういうことを慌てもせずに思える自分が不思議な気もするのだが、そのような自分に気がつけるのもこのような機会に恵まれたからに他ならない気がする。ひょっとしたら、まだこの程度のことだから余裕があるだけなのかもしれないが(だってこれのほかは食欲もあるし、よく眠れるし、血液検査も尿検査もスーパークリアなんだもん)、やっぱりわからないでうだうだするよりも、わかったり感じたりした上で答えが出たり出なかったりする方がよいような気がするのだ。
それにしても、ホルター心電計にしろ、便利な医療器具がいろいろ開発されていることには驚く。それを使用する必要があるかないか、機会があるかないかは別の問題として、さまざまな角度から「自分のことがわかる」技術や手法が用意されているのはなかなか素晴らしいことだ。心電計にしても「生体電流」の発見・・・つまり生物の営みを「電流」としてとらえてみる観点・・・がなければこのような機械の開発はなかったわけで、やはり多角的な興味を持つということは大事だし、面白いなあ、などと思った次第である。