えこひいき日記

猫島顛末記

2004.05.07

仙台出張中にちょっと遠出をして通称・猫島こと田代島に行ってみた。この島のことは某猫雑誌に連載されていた写真家・岩合光昭氏の写真と記事で知った。あと、別の雑誌で椎名誠氏もちょっと書いていたかもしれない。岩合氏の写真が載っていた雑誌は2001年春のものだから、かれこれ3年前になるのか。それを見て3年間恋焦がれたというわけではなかったが、でも忘れ去りもせず、何となく気になっていたのである。こうした雑誌ではもともと毎号日本各地や世界各地の猫たちの写真を掲載しているわけで、その中でどうしてこの田代島のことが気になったのか自分でもよくわからないが、行ってみた田代島はワタシ的には予想以上に面白かった。

田代島に渡る日は、天気は上々とは言えず、曇天で、時折雨がぱらついていた。大雨というわけでもないから、何とか猫に遭えるのではないかしら・・・と思いながら仙台から石巻へ電車で移動。たまたま乗車したのが「マンガッタンライナー」という、石ノ森章太郎ファンなら大喜びするかもしれないが、駅名などを告げるアナウンスが全てロボコンの声というのはけっこうクるものがある列車であった。石巻駅からすこし離れたところにある港から田代島に渡るのだが、港の周囲にはコンビニもなく、そのそっけないような風景のちょっと戸惑った。簡単に昼食用の弁当でも買えるだろう・・・などと思っていたがそれは甘い考えで、港には売店もないのである。あわてて近所の商店でお菓子を少々買って船に乗り込んだが、こうして昼食を抜く羽目になったことはかえって幸いだった。海が荒れたからである。
「雨より、風がねぇ」と船員さんは言っていたが、港から眺めたときには何ともないように思えた海は微妙に荒れていたのだった。船舶業界的には危険というほどではない波の高さなのだが、そこに風によって横揺れが加わる。船は波に対して直角に進路をとって進むので、乗客は波を越えるときの上下動と、風に煽られるときの左右揺れとで、まるで「まわっている」ような感覚を覚えることになる。EXILEが歌う「choo choo TRAIN」という曲のオープニングダンスで、ダンサーが縦一列になって屈伸をしながら体重を左右に移し、ぐーるぐると動くというのがあるが、乗客としてはああいう動きをする2メーターくらい身長のあるダンサーに肩車されたままの状態が1時間続くと考えていただきたい。数分なら楽しいアトラクションだし、十数分でも耐久範囲だが、1時間だとちょっとだけごーもんである。ものの見事に船員さん以外ほぼ全員船酔いしてしまった。私も気持ちが悪くはなったのだがなぜか吐くよりもお通じがよくなってしまって、島に着いた時にはぐったりもしたのだがすっきりもするという、奇妙な状態になってしまった。

島に着くと、早速港で猫に出会えた。その猫はなぜかカラスと並んで浜辺に座っていた。体格はおんなじくらいなだけに、ちょっと不思議な風景である。田代島には猫とほぼ同じ大きさのカモメやカラスといった大き目の鳥たちも多いのだが、別にそれら鳥たちと猫は仲が悪いとかいうことではなく、特に利害関係も厳しくないのかあんまり干渉しない状態を保っているようだ。鳥は必ず猫に襲われるとか、猫だから鳥を無条件に襲うと決め付けるのは、目立つところだけを特徴と思い込む人間の問題に過ぎないようである。
この「あんまり干渉しないけど基本的にウェルカム」な感じは、この島で人間にも猫にも共通して感じたことだった。お世話になった民宿のお母さんも(「こんな天候では来ないと思っていた」と言われた。撮影などの仕事でもなく、釣り客でもなく、こんな天気の日に島に渡ってくる人間は珍しいのだろう)けして関西風に言うところの愛想がよい方ではないのだが、いろいろ島のことや海の話を土地の言葉で話してくれた。お母さんの言葉は意味的には70%くらい理解できるのだが、「んっじゃ真似して言ってみて」といわれたなら京都人の私には何と発音していいのかわからない言語なので、最初は何を話してくれても同じ方言で返すことが出来ないことに何だか申し訳ないような感じを感じていたのだが、そんなことに関係なく話をしてくれたりご飯の説明(すっごく魚がおいしかった!)をしてくれる様子に接しているうちに、そんなことはべつにいいのだ、と思い始めた。あんまり人に合わせることをしないというか、そういう努力をしなくても意外にお互い心地悪くなくやっていける距離感がなんだかほっとした。
猫たちもそうで、見知らぬ人間(私)を見ると「はっ」という感じで注目する。それは警戒ではあるのだが、恐れているわけではなく、逃げない。その場を去らない。一定の距離はおくのだが、むしろこちらに興味を示してくる。ちょうど島の人たちが「どこからきたの?」と声をかけてきたりするのと同じ感じなのかもしれない(とはいっても、めったに道で人に会わなかったので実際にはそんな機会は無かったが)。結構近寄ってきて「にゃー」と話し掛けてくれる(?)猫もいる。それに「はいはい」などと答えると、また「にゃー」といって、一歩近づいてきたりする。そこでまた私が「はい」と答える。そんなやり取りがしばらく続いたりする。子猫などは隠れながら後をついてきたりする。みんな猫の良い(?)猫たちである。こうした猫たちの身分(?)は野良猫といえばそうなんだが、街の野良猫とは雰囲気が違う。街の猫にはもうちょっと人間との間に利害関係的な匂いがするのだが、ここの猫たちにはそれが薄い。とても人間との距離が近く、かわいがられていて、それでいて過剰に人間が管理したり所有したりしていないのがうかがえる。おかげで携帯電話のカメラでもなかなかの写真が撮れた。自立した生物がいい具合に放っておかれるのって、幸せである。民宿のお母さんも別に猫は好きじゃないみたいだが、嫌いでもないみたいだった。

民宿のお母さんいわく、田代島のお隣の網地(あじ)島の方が公共設備もあり人口も多く(食堂がある!田代島にはそんなもんはない)、漁港オンリーの田代島には無い白砂の海岸もあるということで、観光的にはそっちをプッシュされていたが、ワタシ的には猫たちがいっぱいいる田代島が最高だった。ほとんど人間とは誰ともすれ違わないなだらかな山道を1時間ほど歩いたり、その中で鳥の声を聞いたり、虫を見つけたり、海の匂い、風の匂いを嗅ぐのは面白かった。仙台市からこうして京都に戻ってくるとあっという間にその生活に順応してしまうのだが、また行ってみたいなあと思ったりする。

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